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そらの珊瑚

一年に一度
ピアノの屋根は開かれて
確かめられる
狂っている、ことを

どうやら
人の営みから生まれるノイズが
そのうすぐらい闇の中にあった
木や羊が暮らす小さな世界を
ゆるがせながら
平和に狂わせてしまうらしい
 
調律師の非凡な耳は
ほんのわずかな音の狂いを
暴きだそうとする
象牙の鍵盤はしつように叩かれ
彼が正しいと納得するところまで
修復される

やがて単音は複音となり
オクターヴ隔たれているそれらの音が
まるで
捜していたもうひとりの自分のように
まじりけなく
響き会うまで
永遠を刻むようなリズムで反復されながら
磁石に引き寄せられるように歩み、寄る
最後に彼は
小学生だった私が聴いたこともないような華麗な曲を
――ふりかえってみればそれは即興曲だったかもしれない
おそらくいちぶの狂いもない音で
弾いてみせた
それまで無機質だったその指に
命が宿ったかのような豊かな踊り
私はカルピスを飲むのも忘れて魅入られた
それはいつも完結しない夏、
に行われていたようにおもう
 溶けてゆく氷
 グラスの表面
 滴ってゆく水が
 ゆっくりと落ちてゆく動画
あれは
永遠を、誰かがつなぎとめようとしていたのではないか
そんな気がして
今はもう狂ったままに時の過ぎた古いピアノを
――いずれにしても調律師がおとづれる季節は過ぎた
朝陽のような西陽の中でそっとながめている
この鍵盤を押せばどこかにつながるのだろうか


自由詩 ユニゾン Copyright そらの珊瑚 2015-12-22 14:39:20縦
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