雲をこねて、波を泡だてる
あおば

            151130
バブル景気の頃はと
中年の男が懐かしげに回顧する
逆輸入車なんて、国内では買えないバイクを
すぐ近くの国に輸出して、直ぐさま国内に戻して
外車として売り出していた
最低限の国内用保安部品を追加して
国産車の厳しい規制を逃れていたのだが
それが人気車だと一車種でも年1万台以上となり
街のあちこちに走っていて
その異様を誇っていたのさ
冥土の土産にもなると
僕も欲しいなと色気を出して
貯金をはたき
購入しましたスズキGSXR1100
直線道路をよちよち走り出し
曲がり角ではおっかなびっくり
高速道ではその乗り心地の良さに驚いたり
高性能に振り回されて、全く乗りこなせないままに
年を経て
バブルっていつのことなんて台詞を吐く若者が増えた頃
外観は美しいまま中身も良好のまま専門業者に引き渡す
彼らはいい儲けをしただろうとやっかむ気持ちと
これでバブルとは完全にお別れと肩の荷が下りた気がして
います
雲の峰がペネタ型に成ると気分がいいねと
ゴム靴を作るために天然ゴムをこねくり回し
長寿命のゴム手袋を作ろうと
台所洗剤で荒れた手を給湯器の湯からも守るため
皹、アカギレはいつの世にも
おそらく
あの世でも
必需品だろうな
あの世とTPP交渉は
担当者が居なくて
まだどうにもなりません
せめてEC諸国とは
関税ゼロにして貰い
旧植民地から安く天然ゴムを輸入して
蛙印のゴム手袋を量産し
あの世にもこっそり輸出して
ぼろ儲けを企むあなたは
バブルは儚いものと知っておりますか
特にあの世との交渉は粘り強く誠実に
年月を惜しまずに行う必要があります
強行採決なんて言葉は死語となっておりますから
あの世でも通じませんよと
販促用家庭用洗剤を配る若い男
まだ20歳代なのに面構えは中年並みにしっかりしている
もしかしたらこの男が交渉役としてこの世に現れたのかもしれません
ことしもゴム手袋をしながらふと彼からのイベント招待のハガキを眺め
暇だったら行けるのにと思ったり
とにかく、この国内GNPマイナス成長の時代に車を売るのは
大変なようです
高価な車ほどよく売れるというバブルの気配を感じることがあったりして
ひなたぼこ景気と呟いて
自転車に跨がるのです。


初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/
  タイトルは、かんなさんです





自由詩 雲をこねて、波を泡だてる Copyright あおば 2015-11-30 22:49:06
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