お父さんのお葬式。
梓ゆい

手を振る父が見えたような
雲ひとつ無い冬の空。

最後の呼吸にも似た突風が
火葬場の玄関を通り抜ける。

(足音だけが響く廊下。)

両腕に抱えた骨壷が
最後に抱き上げた身体よりも重たい。

(遺影の父は微笑んだまま、私たち家族を眺めているだけ。)

「おーい。」と呼ぶ声が聞こえてきそうで
その場所を離れたくは無かった。

「そうすればきっと、父の死を認めてしまう。」

その事が怖くて
動く事が出来ずにいた。

(腕の中にある箱の結び目をほどいて、陶器の蓋を開ければきっと認めなくてはならない。)

マイクロバスの座席に
広い式場の何処かに
父の姿があって欲しいと期待をして。

最後の日
「抜け殻になったんだよ。」と耳打ちをした母は
受け入れようともがいていたに違いない。

ほんの少しだけ舞う雪が
父の抱擁の変わりに
母と私と妹を包み込んだ。

(受け入れてしまえば、幾分かは楽になっただろうに。)

失った恋・叶わなかった希望・いつの間にか消えていた友人/知人たち。
それらを理解した時に
覚えた落胆と諦めを思い出して。

それでも
次々に愛する誰かを送り出さなければならない。
どの位続くか解からぬ人生の中で。

そのときはきっと
悲しみの中に感謝を添えて
菊の頭を棺に納めるのだろう。

父の遺影を眺め
「大切にしなさい。」と言う事が
理解できたのなら。


自由詩 お父さんのお葬式。 Copyright 梓ゆい 2015-11-29 00:06:52
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