冬庭の音符
そらの珊瑚

冬庭は音符を奏でる

花の終わった残骸は
案外気難しく
やっと植木鉢から引き抜けば
無数にめぐらせた白い根は
持てるかぎりの土をかかえこんでいる
ああ うたはここからも
うまれてきているのだと

色が失われてゆく季節の中でも
はなみずきが
ぽつる、ぽつり
小さな赤い実をつけている

少し凍えた指に息をはく
舞台のそで
グランドピアノまで数歩のところで
覚えたはずの音符をことごとく
忘れてしまったような
誰にももう頼れない
ああ ひとりだという心細さが
一歩を踏み出そうとするこの足先に
ひたひたとおしよせてきて
どこへも根を張れずに生きている自分というものに
せめてこの身が産みだした
あたたかい息を
ひゅぅと吹きかけてみる


自由詩 冬庭の音符 Copyright そらの珊瑚 2015-11-22 12:39:15
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