どっちにもなる気はない
ただのみきや
「自分に味方しないものは敵だ」
という考え方と
「自分に敵対しないものは味方だ」
という考え方は
同じようでいて ずいぶん違う
生まれつきの敵も味方もいやしない
パレスチナ人に生まれても
ユダヤ人に生まれても
イスラム教徒の家に生まれても
キリスト教徒の家に生まれても
民主国家に生まれても
独裁国家に生まれても
テロリストの子供として生まれても
平和主義者の子供として生まれても
やがて憎しみ合う者同士も
やがて殺し合う者同士も
生まれた時には
ただ乳と愛を求めて泣くばかり
「敵の敵は味方」とは限らない
「味方の味方なら味方」とも限らない
「味方の敵は自分の敵」本当にそうか
あなたと考えを異にする人はあなたの敵か
あなたに賛辞を送る人があなたの味方か
政治的主張が食い違えば敵か
ひいきの政党が異なれば敵か
戦場で銃を撃つものは敵か
戦争に反対するものは敵か
犯罪者は敵か
警察は敵か
味方はどこ
味方はだれ
何に味方すればいい(ナニニテキタイスレバイイ)
「味方になって欲しい」
多くの人があなたに縋りつく
ほしいのは味方だ
あなたが味方じゃないと分かったら
目を吊り上げて踵を返し後ろ足で砂をかける
敵だ敵だ敵だおまえは敵だすべては敵だ
一人孤島に置き去りにされた敗残兵のように
震えながら銃眼に唇を押し当てて
卵の殻を被った少年の
精一杯のテロリズム
敵がいないなんてありえないさ
敵をつくらずに生きて往けるわけがない
味方が一人もいないなんてありえないよ
誰か一人くらい味方がいるものさ
さてどうかしら
敵と味方しかいないのか
敵か味方か決めなきゃだめなのか
もともと敵も味方もいやしない
敵も味方も自分が決めること
そうさ 気兼ねなく決めればいいさ
攻撃されたくなかったら
お口にチャックで微笑んでいたらいい
スパイみたいに敵に紛れればいい
はでにドンパチしたければ
のぼりを立てて声張り上げて
味方を集めて敵を罵ればいい
もともと敵も味方もいやしない
いるのはただの人間だ
敵に回ろうと味方につこうと
いるのはただの人間だ
敵でも味方でもない
いるのはただの人間だ
敵にも味方にもなれる
いるのはただの人間だ
《どっちにもなる気はない:2015年11月18日》