「むすぶ」
小夜

継ぎ目もなくすきとおる
うしろすがたのような青
とおくからきた風がとおくへとぬけていき
休日のざわめきや
かすかにひびく水音や
何重奏もの葉擦れを
はこんでいく

ふと見る枝に
リボンが揺れている
まっしろなリボンが
かたく結ばれて
わたしの髪やスカートと
おなじリズムで風に舞う

いつか
とてもたいせつなリボンを手にして
こんどこそ最後だと
結ぼうとした
かたく結ぶほど
なんども、ほどけた
力をこめれば
リボンはくしゃくしゃに色あせて
やがて見えなくなった
見えなくなった結び目を
押さえつけて泣いた
ほどけないものがほしかった

あの日
わすれさられたプラネタリウムで
ほしあかりが一点にすいこまれていくように
うつわだけを残して
ひとでなくなった あなた
ぬけがらであるということが
あたりまえのようにおもえて
とりかえしがつかないときづいたのは
うつわすら土にかえしたあと
もう問いかけても
答えはない
土には決してかえらない
かたまりを抱いたまま
いくめぐりかの
はじまりとおわりをみとどけて
ある秋の快晴の日に
わたしはリボンを見つけた
あなたが残していった
わたしのために結ばれたリボンを
丁寧にゆびさきをたしかめて
ゆっくりと引き抜けば
それはするりと舞い上がり
空へ飛んでいく

あるいていくということは
ほどけない結び目を結ぶことではなく
あらかじめ結ばれたリボンを
空へ放つこと

はるか頭上
もう点のような背中
答えはかえらないけれど
リボンは自由に飛んでいく

だれかが生まれて
この世界にたくさんのリボンが結ばれる
それは、ほどかれるのを待っている
あしあとのように、結び目はうまれつづけて
ある日突然
そのときがくると
目の前にあらわれる

すべてのリボンを空に放つために
わたしはあるきつづけている



2015/11/14 TEENS KNOT REVUE@Jazz喫茶映画館に寄せて




自由詩 「むすぶ」 Copyright 小夜 2015-11-17 20:24:57
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