味覚は時空を超えて
薫子

お好み焼きと言えば、大阪風お好み焼きか広島風お好み焼きか?なんて言うのはお好み焼きがご当地名物でない私のような人の言うことなんだろう。

父はとても忙しい人だったが時々、私達兄妹3人をお好み焼き屋さんに連れて行ってくれた。店の名は「かも川」

かも川だからおそらく関西の人がしているお店だったか、もしくはそう連想させたくてそういう店名だったのだろう。

そこでは、父がお好み焼きを焼いてくれるのだが、いつもの父と違い職人さんさながらに手際よく具材を混ぜて、
鉄板に延ばし、じゅうじゅうと音を立ててお好み焼きを焼いていく。クライマックスは目にも留まらぬ速さでくるりとお好み焼きをひっくり返す動作!子供の私達はその度に歓声をあげる。
さらに、ソースを表面にさっと塗り芸術家のように細く美しくマヨネーズをかけ、削り節を踊らせるところまで見たら、普段家庭不在の父をそんなことなどどうでもいいことになり尊敬の眼差しで見つめる私達。
切り分けられたお好み焼きはまた格別に美味しかった。

紛れもなくこのお好み焼きは大阪風お好み焼きだと思う。

すっかり忘れていたこの光景を私は数日前に思い出し、ここ数日、幼い日のあの楽しかった思い出に浸っている。

それは先日、大阪で食べたお好み焼き。

かなり大阪のお好み焼き屋さんは混むと聞き予約しようと数件電話したが、年内予約はいっぱいとの返事。
とにかく大阪に来たからにはお好み焼きは食べたい(@ ̄ρ ̄@)

並んで入ったお好み焼き屋さんで、店員さんが目の前の鉄板でお好み焼きを、焼いてくれるとのこと。

内心ホッとする。自分で焼くとなると私はかなりの不器用。お好み焼きは床に落ちるかぐちゃぐちゃになる可能性大。

店員さんが具材を混ぜだすと、具が鉄板にハラハラと落ちる。混ぜ終わった具を鉄板に広げ先ほどのハラハラと落ちたお野菜もひとまとめ。手際よく焼きあがったお好み焼きはふっくらフワフワで、ソースを塗られた上に削り節をフンワリのせると、生きてるように踊る。切り分けて食べてみると…


やっぱり、フンワリフワフワ…

私は思わす歓声をあげそうになった。


あの遠い日の小さな手をたたいて大喜びした幼子のように


お好み焼きは懐かしく温かい味がした。
私は大きくなり、年齢も重ねたけれども、舌はちゃんと遠い日のあの日のことを覚えている。

一枚のお好み焼きが遠い古の日と現在を結んだ不思議なある日の出来事…


散文(批評随筆小説等) 味覚は時空を超えて Copyright 薫子 2015-11-10 23:59:24
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