アパート@猫一匹
為平 澪

スズや、スズ、と 呼べば白猫が一匹
呆けてしまった昭和の頭に 鈴の音だけでやってくる

年老いて逝く者の生きがいのために 孤独死を恐れてか
「アパート一室につき猫一匹飼育可能」、の高邁なプランを掲げる、
煽り文句は、共に死期を選べない 残酷な生命共同体世帯

スズは捨て猫
捨て猫が拾われて飼い猫になれば、又、
捨て猫を呼び込む、呼び込む、スズが一匹、一匹、もう一匹

朽ちていく頭の中で猫の鳴き声
(お前より先には死ねないね、
(食べ物も底をついた、寝たきりの私に、もうあげれるものなんて、

アパートは放火されたらしい
犯人は猫にゴミ袋を荒らされて 腹いせに焼いたという
不思議なことに住居人の死体はなかった
勿論どこから来た人か、何という名かも皆、知らなかった

焼け残ったアパートから 今日も鈴の音が鳴る、リン、リン、リン、
         、足あとだけが、夜の頭を鳴らしてわたる、、、


自由詩 アパート@猫一匹 Copyright 為平 澪 2015-10-22 17:05:54
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