ふたつ ふたたび Ⅲ
木立 悟






記憶の穴の水流に
映っては去る音と影
はばたくばかりで飛べない径
小さな本を敷き詰めた径





いつも何か言いたげな
消えない羽を呑み込んで
蒼と灰の時間どおりに
手のひらを川から遠去ける


ひとりがひとりに手を振るとき
苦しみは泡に粒になり
曇を昇り
雨を照らす


蒼のまわりを
灰がまわる
そうして生まれた水のひとつが
最初の羽に変わりゆく


曇ひとつ
星ひとつ無い空は渦まき
色のはざまに濡れながら
人のように鳴いている


つなごうとしても
つなぐことのできない手のひらに
羽はひとつ
降りてくる


地に到くことのない雨の
息だけが静かに窓を揺らす
羽を蒼に
手を灰に染め降りつづく





澱みの向こうに立つ影が
水の穴を見つめている
飛び去る径を振り返りながら
失くしたはずのものへと歩いてゆく



















自由詩 ふたつ ふたたび Ⅲ Copyright 木立 悟 2015-10-09 09:39:00
notebook Home 戻る