夏越しの約束
そらの珊瑚

この風を知っている
そんな気がするのは
夏を生き延びた生き物たちすべてが
その手をつないでいるからかもしれない

地球のどこかで生まれて
地球を何億回も旅をして
悲しみの涙を流す人のほほを
乾かすこともあっただろう
或いはひとりさいごをむかえようとしている人の
わずかに残った体温を奪ってゆくこともあっただろう

葉がゆれる
朝露がこぼれる
雲が運ばれてゆく
ただそれだけのことに風の存在を見い出す

透明であることはいいね
見えないのに
在るということを
信じることが出来るから
世界のどこかの戦火から生まれた風が
光る稲穂をそよがせてゆく
亡国の魂のような君を知っている
ふたたび
私は約束を思い出して
この手をつなぐ



自由詩 夏越しの約束 Copyright そらの珊瑚 2015-09-23 10:47:00
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