『薔薇巡礼』
川村 透

ブーーンンンンンン....


薔薇の蜜は動物の汗のように、ねっとりとしている。
と、想いながら、
登る。
三輪山は緑の茨だった。登山道は熱帯雨林にのた打つ大蛇のように白くノーブルに
米の砥汁じみた淡い霧とまぐわいながら、頂きを目指し、たゆたうのだ。
登る。
桜は薔薇の幼生体だったに違いない。薔薇科目桜属性葉緑素髪降る並木茨の仔
銀の葉桜それは君だった、
それは君だった、
と、想いながら、
登る。
薔薇の生臭さたっぷりと含む綿のTシャツは深く深く赤く
異人の体液のように香り咲く薔薇色の染み、
君だまちがいじゃない。
登れ。
スニーカーに絡む緑の蛇は桜の幼さでぷつりつう、ぷつりつう
と降参し続け仰向けに骸をさらしながら靴の轍を刻まれて、
悦びに身をくねらせながら僕の踏み分け道へと変化してゆく。
かかとからうなじまで真っ直ぐ太くすっきりと立ち足元から山をえぐり続ける者、
として僕は、
汗を拭いながら登りつづける。


ブーーンンンンンン....


ンン薔薇巡礼/リビドー・る

薔薇純菜。韻なあTRIP-TRAP、雌、慰撫るリグレットZ
薔薇グライダー戸籍サイダーinsider---暗いんだ隧inドーマンセーマン雪ん子噛んだ
薔薇部落るすずらむ通り泣く子稲柿の茂と本、元喪と元可憐だカレンだカーペンタ阿
薔薇球コア、ラリーIn iんでもない。Nineだ。九、きゅうと鬼の押韻ing in-it unit
薔薇京のドアOpen-Your-Eyes、Agg、ルーンンンン姫文字重金属のブリリアント、ン

ン、ンンンンン....

ン薔薇パリ、バリ、ケチャ百の指が押韻す赤い空指す指裸のケチャップ舞い舞い薔薇
爪た囲。摘めた異薔薇む。こたえてよ神威、かがり火、野火、いぶし銀煙、銀、杏。
アーナンダ、韻語句、煉獄、捨てよこの門の前で舞えスターリンよ失楽の失笑門ノ仏
大暴笑面、毘沙門天から降る願かけて花出る森のあざみ、れ、リーフ、ブ、リーフ、
レット、ロット、Beee>精霊のアジアの曙の鯨缶、伊の5号青の六号無節の火の木と
繊維、薔薇、薔薇ん、バロン、聞こえるか。触れるか。ずっともっと蜘蛛の揖保に赤
イルカ烏賊ただれた花弁のリンパ球ヌクレオチド、ミクロマクロ、テクノ菊のチクロ
解くの、野ノ原やまい垂れる、斑点、ぶちの犬猫ギズモ、ペイン、火のくぐるくぐつ
轡に馬の原ノ秘めん婆裏面婆茨、ビリケン、山ん婆薔薇肉と一緒、一生に行こう。
そうして、ン薔薇だ。薔薇だ茨だ薔薇だ椅子だパラいそ、さ、いく、だ。


ぶり降り栗んと東方の博士。

ーンンンンンン....登る。
三輪山の空には
匂いを感じない。透明な花、鼻。赤しかない、深い薔薇オレンヂの薔薇
うつく、詩句。
薔薇とは何だ。ダリだ。デリダ。
ドウゥービーなビラ。
ダァァービーな旗手。
首なし騎馬武者その首の代わりに巨大な血濡れの薔薇の首かかかっと、
登る上げ馬、僕は視る。身をぶるぶると薔薇の汗、汗血馬汗ぶるると、
僕の頬打つ顔をしかめて頂きを視る、んんんん薔薇の若武者緋おどし


それは君だった、
それは君だった、
登る薔薇、
薔薇巡礼


ぃぃぃぃぃぃィィィィンンンンンン、ブ。


陸路抜け海図くらえ九鬼のマチネ、ポエティックな海、薔薇、浜薔薇、千鳥薔薇
日本丸砲門開けいや、あ赤身の肉花咲く答志島渡り水軍総帥九鬼嘉隆村上の韻の
島の志摩の死びと首長竜の裔の子の首落ちる薔薇花弁首なし武者は薔薇化した首
に己の太刀あてがいゴトリ。押ぅぅ韻ing薔薇ほとり。

....iiiiiiinnnnnnnggg

首塚。血濡れ池首洗い塩もみ洗い叩き叩き鰹群なす鴎舞う鎮魂の薔薇輪、血合
藍、鰹こね、
手、こね、寿し、産め。青海波唄え島渡り志摩びとポエティック九鬼胴塚ど、
うか、どうか、どうかどうかどうか息子ををん念菩提常安風待ち、マチネ港を
鳥の羽、つばさ日和遠く無線の方位石示す貝殻ん、どううう香。薔薇の花束を
ドーマンセーマン白抜きね、やこ。

それは君だった、
それは君だった、
したたる鬼薔薇、
薔薇巡礼--ing
僕が登り続ける


ブーーンンンンンン....


....ンンンンン、バ!!《ビル薔薇咲く》
ほら、そこ
あの鏡面ステンのファサード、ぎとぎとした、巨大樽型ビルの脇に薔薇が咲いて。
指さす僕はぎろぎろとしたオレンヂの太陽ちろちろフレア暑苦しい犬の舌に頬ねぶ
られながら
ブーンンン、指の星、ひと指し指のバイブ、レーション
ハ、レーション、
ハ、レルヤ、ぁ、
くすぐったくて指、おや、指の股までシビれる
う。
ちりちり、ちくちく、
僕の指は真昼の線香花火
ブーンンン、指の星
指鉄砲。狙えビル。目指せ銀。ビームム串指せ薔薇。
ほら、ここ
あの錆色ステンのファサード、ぎむぎむしたビルの脇に薔薇が咲いてマンドリン
いつしか薔薇はむくむくと伸びるよマイク貸せ

僕が唄う、シャウトしてやる、真昼の舗道のど真中、人、人、人、よ、立ち止まれ
指、指し、狙え、ほら、ほうら。鐘、太鼓、用意はいいか、ベル、鳴らせ、ベベル
薔ぁ薇色足、踏み鳴らせ、タップ、たっぷダ、他っぷ、ブリリアント、ビールだ、
腹だ。胎蔵だイカだ、タコだ。マンダラ首振り、吊せ、僕の指の、
その子の根のねの先っちょ、花火トンガレ薔薇だ刺だ赤い赤い差せ刺せ指せサセ、
ぎち、ギす、ギんぬ、りん、サナトリウムああ牛追い薔薇肉カンニバリズム
生きているジム死んでいるギム吟、銀の義務、仁、人のジャム
バルセロナの夏葡萄、粋スるキリコ、キュービー、ガウディ、グレコ
そうだ、オリオン、マリオン唄え、マルガリータ、唄え《オ、レ!!》


《ビル薔薇ブーン!》


 ブーンン、指の星
 僕の指は線香花火
 ちりちり、ちくちく、
 COOL、CALL、COARA
  People〜People〜
 ブーンン、指の星
 僕の指は印度カリー
 ぢりぢり、ぢくぢく
 FOOL、FALL、HEAVEN
  Pupil〜Pupil〜
 ブーンン、指の星
 僕の指でリリカル・リップ
 ぬれぬれ、ぬるぬる
 PISS、KISS、LIPSTICK
  Hepburn〜Hepburn〜
 ブーンン、指の星
 僕の指の甘皮剥けて
 きらら、つららら
 FILM FOLME ホルマリン
  Holy〜Holy〜
 ブーンン、指の星
 僕と君が指で刺す
 びるびる、びろびろ
 ビル、薔薇、ブーン!
  DeeBee〜DeeBee〜


(ケチャ!)
ほら 、どこ?
ここだ、ここだオ、レ!
あの瑠璃色ステンのカーテンウォールぎぬぎぬ舌ビルの脇に薔薇が咲いていたんだ
その古ビルの脇に巨大な薔薇が。
聞こえないかビル腹下痢腹FAX定規カタタタ吐く髪OL薔薇咲く、
聞こえないか地下冷蔵庫うなる斑牛生ハム・メロンのプリム・ローズ
聞こえないかちりちり蓮華そけい部・ソネット奥歯昼ヒル茨バロウズ
聞こえなイカイカ作用イカ異化タコ化・ウィリアム・テルズ・浴ビル
指の星線香花火ぶつ、ぶつぶつ。
ぶつぶつぶつぶつドグマ・マグダラ/足濡らせ花火君がいないなぜだそれは街がE
ビル薔薇、昼薔薇、ビア腹、Here Her "Barbara" Bull-Blue-Bird-Guitar!!


ビル、薔薇、ブーンンンン!
ビル、薔薇、ブーンンンン!

オ、
レ。


「...................。」


薔薇の蜜は動物の汗のように、ねっとりとしている。
と、想いながら、
登っていたはずだ。
ブーンンンン!
ブーンンンン!あれは何の響きだ。ア・ラ・カルト鈴唐毛の馬慣れ?
山婆ビル薔薇蛭?
事務、総務Soul?
銀 、絹、京子?
上げ馬の落ち武者、WATERLOOの戦い?それとも、薔薇十字、茨クロス白騎士の銀の
つ血ぼこりィ?

--ing-a-Bell--んんん


薔薇カルト、
薔薇獣、白亜の朝に吠える窪地で銀の少女白薔薇の騎士が憩う。
薔薇色泉、水浴びの少女、義の色、銀色の髪すすぐ裸体の
白騎士鎧装束が草の上、人型に脱ぎ置かれ死びと、じみて風になぶら、れ。
早朝の乳色の霧越しに陽光は紗紗と降る風がカラ、と鎧を揺らす

少女の後ろ姿、音を立てて全裸で泉から出るや、身を震わせ朝靄の中人型の霧を撒く
折りしも銀に陽光育ち真珠色に縁取られ少女は東方からの聖水の露で草濡らし立つ。
髪、すき、胴着まとい、少女はきりきりと銀髪を編み上げ鎧白装束を身に
つけてゆく。薔薇色の腿に虹が差し染め銀の筋肉がうねり華奢な蟹の姫に変化して
ゆく。兜かぶらむとする手をつと休め水辺の白薔薇を摘み、桃色の口でくわえると
唇を茨刺し思わず目を細め瞬きする凶々し桃の赤く血玉の生まれるつつうキスの仕草
その時、
!!
泉囲む山くろぐろ闇しげみ緑の茨を噛み破り不意に九騎の黒騎士が四方より殺到す
少女騎士、首から下は白騎士装束その鮮やかに結い上げた義の色に映え、
見よ、銀髪の首は無防備のまま。
え、
や!
腰の剣に指伸ばす間もなく少女の首は黒騎士どもにあっけなく刈られる銀の薔薇。
ほと、首は花のように草むらに落ち少女のくわえていた白薔薇が宙を舞い、
銀髪が花火の残像めいてきらきらと陽光に濡れ風の指に運ばれちりちり散り、
白騎士鎧銀装束残し刈られた少女の首の変りに薔薇はその赤いうつろに見事にささる。
九鬼どもは確かめもせず山を駆け降りてゆく土ぼこり黄色に垢じみて陽光を惑わせ
少女の体はまだ一歩二歩と歩み続けこんこんと赤の泉は白装束を薔薇に染める。
少女の首は薔薇に生まれ変り一歩進むごと白薔薇は染まり膨れ魔法のように花弁が
育ち大きくつやつやと香をたたえ処女色の薔薇はこくこくと音を立て赤の泉を
飲み干してゆく。
薔薇の同伴者白騎士少女はまだ歩みつづけているロゼ・ピンク《薔薇カルト》


ンーーンンンンンン....


三輪山はまだ緑の茨だった。登山道は銀色に赤く茶色じみて黒く白蛇のように
香気にむせかえる緑の茨たちとまぐわいながら、頂きを目指し、たゆたうのだ。
登る。
僕も薔薇の幼生体だったに違いない
登る。
茨の道行は冷たくて仔馬のように呼気は荒く凍えるように
登る。
まだ、僕を拒んでいる。
登る。
零下45度の薔薇を想う。
登る。
粉々になれ。
登る。
僕は泣いていた。
登れ。

そして、
そしてとうとう、
僕の心臓は硝子の薄い肋骨を割り砕きぐるりと裏がえって、
肉の薔薇となって咲きはじめた。
じくじくと筋繊維、弁膜のひとひらひとひらが
肉厚の花弁と化して乳を押し開きひくひくと震え蜜もたわわに
薔薇り、と花汁がしたたり僕の胸、
から、重く、甘やかに、薔薇が匂い始めた。
僕は歌っていた。

ああ、島渡り、志摩びとの鬼-押韻-ing茨の産道ノ蛭、白無垢の蛇登れ薔薇人。



薔薇の汗は動物の蜜のように、ねっとりとしている。


それは君だった。
それは君だった。

薔薇巡礼僕は登り続ける




....ンンンンンンーーブ


-----------------------------------------------------------------------------
【Thanks to】(敬称略)
BGM "sweet 16" Motoharu Sano
*文中”それは君だった”というリフレインは以下の曲へのオマージュです。
01「MR. OUTSIDE」 10「MR. OUTSIDE(REPRISE)」
「花束のように抱かれてみたく」角川文庫 俵万智(短歌・文) 稲越功一(写真)
「花の詩集」福武文庫 熊井明子(編・著)
「妖怪ハンター」--生命の木-- 集英社 諸星大二郎
「九鬼」現代詩手帖2000年6月号 飯島耕一(九鬼周造)
「戦鬼たちの海」 文春文庫 白石一郎
「海の博物館」(鳥羽市浦村町地内) 石原館長に敬意を表します。
「帝都物語」カドカワノベルズ 荒俣宏
『実験小説名作選』 集英社文庫/筒井康隆 選
 「幻の戦士・鈴唐毛の馬慣れ」中村誠一
「BERSERK」白泉社 三浦健太郎
三輪「山」へ。 (奈良県桜井市)
そして、それから、僕たちの、伊勢・鳥羽・志摩の「海」へ。
その他数え切れないイロイロナモノ、コト、ヒト、たちへ感謝を込めて。
-----------------------------------------------------------------------------
【初出】FCVERSE MES(1) 赤の部屋 2000/06/16 #04308 2000/07/05 小改訂 ver1.23

白銀に薔薇獣、咆哮す。


自由詩 『薔薇巡礼』 Copyright 川村 透 2003-11-10 13:04:33
notebook Home 戻る