誤解物語
陽向∮

つくづく不平らしく、海に向かって、高慢な舌打して、
「ああ、退屈だ。」
と呟くと、頭上の崖の胴中から、異声を放って、
「親孝行でもしろ――」と喚いた。

(泉鏡花 「草迷宮」)

中学生の頃 残念な位太った女性教師が居た
見た目に似合わず 理科担当だった

つまらない授業だった
授業より福山雅治の話の方が多かった

余りにも退屈なので
実験机で六人掛けに座っていたので
後ろに座っている生徒に話し掛けようと思った

後ろに座っている彼は流行の小説を隠れて読んでいた
これは山田悠介だね? ストーリーが面白い

太った女性教師はほうれん草の話をしていた
ほうれん草を食べると背が伸びるのよ

彼と山田悠介の話に夢中になっていると
太った女性教師がこちらをじっと見ていることに気付いた
こちらに向かって歩いてくる

彼は身の危険を感じたのか 
小説を誰も座っていない椅子の上に乗せた
隠すの下手だなとわたしは微笑んだ

女性教師に直ぐ小説を見つけられてしまい
やれやれと思った

女性教師が思いっ切り小説で頭を叩いた わたしのだ
彼は驚いた顔をしていた なぜかわたしが叩かれたからだ
わたしは殺意が芽生えた・・・

濡れ衣が晴れたのは五時間目が終わった休み時間の頃だった
太った教師はわざわざ遠い教室のわたしの元に来て謝ったのだ
どうやら小説を実際に読んでいた彼が自白したらしい

太った女性教師はとても申し訳なさそうな顔をしていた
ふとこの教師が云っていた言葉を思い出した
ほうれん草を食べると背が伸びるのよ

その日家に帰り 親には一言もその日の事は口にせず
山盛りのほうれん草をまずそうに食べている自分がいた


自由詩 誤解物語 Copyright 陽向∮ 2015-09-15 13:30:52
notebook Home 戻る