秋道
らいか

「もう秋だな」
「ううんそうじゃなくて、まだ秋だよ」

「秋ってさ、どうして秋なんだろうな」

「そんなロミオとジュリエットみたいなこと言わないでよ おかしいなぁ」
と女の子はそう言って乾いた猫じゃらしを手に摘んでねじるように回転させる

「回し過ぎじゃない?」

「回してるのよ」

ほら、と男の子は女の子の回している指先を指さした
猫じゃらしは根元が少しちぎれそうになっていた

「そしたらもう少し上を持てばいいのよ」

そう言って根元から少し上に指先をずらした

暫く下校道の畑沿いを歩いて、金木犀の香りに鼻で気がついたとき
男の子は
「ねぇねぇ今日遊ぼうよ」
と女の子に声をかけた

「うち、門限があるのよ、ごめんね」

「そっか、そうだったね」
「秋ってさ時間短いよな、もうすぐ冬だしさ」

「何言ってるの?」 クスクスと笑いながらこう続けた
「まだ夏終わったばかりよ?」

「秋はあっという間に終わるよ
  そしたら春が来て長い長い夏が来るんだよ、それでまた秋が来る」

「じゃあ冬はどこ行っちゃったの?」またクスクスと笑う

「冬はなきっと無いんだよ」

「無いの?なくなっちゃったの?」両手で微笑んじゃう広角を隠す

そんな女の子を横目に男の子は
「何もない リセットの季節だよ
春に芽吹いて 夏に茂って 秋に輝いて また何も無くなるんだよ」

少し考えて
「男の子って意外とロマンティストなのね」

「そうでもないさ」

「ううん。十分ロマンティストだよ」



夕日と金木犀の香りのする秋色な帰り道に

秋虫の羽音を聞きつつ

ゆっくりと流れる時間を踏みしめながら

冬を待つ秋を踏みしめ二人は道の突き当たりで別れた 

どこか遠くからか薫る野焼きの匂いと秋虫の羽音しかしない帰り道のちょっとした出来事でした。


散文(批評随筆小説等) 秋道 Copyright らいか 2015-09-13 17:29:47
notebook Home 戻る