二大銀河間におけるくじら式転生輪唱のすべて
北街かな

潮騒に満ち足りて寝そべる海原のへそでくじらがボェボェ歌っているよ
爆発する噴水の歌詞で
夜空のビー玉をパツパツと撃ち落とす調子っぱずれた伸び率で

水しぶきが形成する流行りのおしゃまな音符は
リズミカルに絡まりあい籠になり
哺乳類のたましいを詰め込まれ
別の銀河への輸送を託される
高音の恒星音で発光和音に調律されて
生まれ変わりの準備はへいき?
前世は宇宙塵、今生では赤目の雪うさぎ、来世は何星人?
来々世は人間がいいな、
たましいのみなさま、ざんねんながら地球人はご予約が満席で致し方なしのご覧のありさま
だいじょうぶ
そのうち二大銀河はひとつになるし
あたらしい名前も決まっているんだ

年にいちどの葬送のおまつりの夜には
ぜんぶの海で盛大に生誕が祝われると聞きました
音とともに宇宙へと埋葬されていく哺乳類の葬列は
すべてはくじらの想いのままにされるがままでありましたが
光とともに地上にて目覚めていく恒温の命は
ぞんぶんに泣いたり叫んだり暴れたりで大忙しなのでございます

祝辞は海面と大空の隙間で反響し続けている
途絶と開始の歌は交互に
可能な限りの可能性を遺伝子に与え続け
宇宙の大きさが決まる未来まで
虹色のくじらが海面を埋め尽くすまで
地球星が音波の噴水に覆われるまで
生まれ変わるたましいが尽き果てるまで
続いていくのですごきげんようこんばんわ

実のところ地球人よりも地球人であったくじらたちによれば
産声の発生源をよりよく探知するための優秀な鼓膜は
海のものたちが海水によって共有している先端文明なのであり
そこにこそたましいと海の楽譜化問題を解決するヒントが隠されてる
くじらが歌えば歌うほど銀河間の生まれ変わりは顕著化し
いずれふたつの銀河は見分けがつかなくなるほど転生するが
つまるところ二大銀河はひとつになるし
あたらしい銀河人も決まってゆくのだろう
くじらが虹色になったときがおそらくチャンスだ

その頃の人間たちはといえば
ハイテクが行き過ぎて全ての個人が一大文明化され
言語体系もあたりまえに分離し
物理法則も人それぞれになって
だれもが小生意気に初期宇宙と化しており
ときどきインフレーションを発症して救急車で運ばれている

夜空が死んだ命で膨れあがっていくころには
くじらの歌がうるさすぎるとの苦難によって
全地球市民の睡眠欲が微生物レベルで破裂していく
見よ、あのたましいが百回目の輪廻からはずれていくときの譜面を
やはりボェボェが行き過ぎであるがごとく
そのたましいはすっかり透明になりすぎであったので
ついにくじらは言ったのだ
我々は虹色であると
くじらたちは海水を噴きあげて喜んでいたが
来週あたりには大銀河団がここまで降りてくるので気をつけろ
どれだけのたましいでも構わないよとくじらは得意げだ
野山はどうなるのだろうと雪ウサギは沈思したが
だいじょうぶ、いずれみな目を閉じるさとパンダは踊り
熱的死まで遊び続けようと胎児は仄めかし
大宇宙は一向に身を固めぬわけだが
くじらだけは母星が死んでも流星形自己回帰するという話だ

聞いた話によればだけどね
満ち足りて貼りつく次元限界でくじらがボェボェ輪唱してるのさ
超新星のうち鳴らしたシンバルに乗り
死者の足並みがペケペケと合わせられていく
海面と夜の隙間では
最終哺乳類が海水製の楽器を山と積みあげ
未来にも過去にも存分にお届けできますよう
遺伝情報を歌っている
生きて生き終わり星になるためでもありつつの
たましいたちの円環パレードがはじまるよ
地球星にて深くひろく泳ぎたつ青の群れたちは
噴きあがり虹色の声となるだろう
ボェボェをよく聞いてさあ、おでかけだね
音符まみれのくじらに乗りこみ
青い宇宙へ浮かびあがる

星はぽとぽと落ち続けている
そろそろ地球も満員ですから
二大銀河のたましいのすべてが混ざったころ
ようやくおまちかねのくじら宇宙が誕生しそうです
いっぽう地球人は常日頃から爆発し続けていたが
それらの一般現象もふんだんに含めたうえで
ようやくあたらしい時代が海の色で開けていくのを見るのです
ボェボェボェ


自由詩 二大銀河間におけるくじら式転生輪唱のすべて Copyright 北街かな 2015-09-11 22:31:53
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