廃人の唄
葉leaf




ただ電車が通り過ぎていくのを
意味もなく微笑んで見送った

誰に語りかける言葉もなかった
本当の言葉など要らず
偽物の言葉で構わないのに
偽物の言葉すら持ち合わせていない
もはや本物と偽物の区別はなく
ただ失語するだけ

私はただただ廃人のようで
だが私は廃人のような無私な人間になりたかったのだった

廃人の前にはいかなる倫理も成立しない
だが廃人の内部は特殊な倫理で満ちている
廃人はどんなに悲惨でも本人に悲しみはない

廃人はどんな侮辱にも怒らない
何もかも透過する透明な人間である
廃人は「廃人」以外いかなる規定も無効にする

廃人は今日が終わったことを知っている
だがそれには何の意味もないと思っている
沈んだ太陽に向かってどこまでも進んでいく
廃人にあるのは今日だけだから
廃人にとって夕暮れは全ての終わりである

廃人は矛盾する
そして廃人は大笑いする
それは激怒であり慟哭であり絶望である

廃人には歌うことしかできない
歌うことしかできない人間は皆
廃人の空虚を抱えている
廃人の歌は誰も魅了しなかった
かつて、そしてこれからも
だがそれは廃人にとってどうでもいいことだ


自由詩 廃人の唄 Copyright 葉leaf 2015-09-04 03:57:07
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