春のパリ
番田 

私は昔、フランスを旅行したことがある。私が泊まったのは、安宿だったことを記憶している。当時私は失業中だった。サーチャージ込みで往復四万四千円だった格安航空券を私はHISで購入した。その旅行の一番の思い出だったのは、私がそこで、いろいろな国の人と少なからずもコミュニケーションできたことだった。外国人は悪い人が多いというのは、私の中での偏見だった。周りは、コミュニケーションのとれない外人ばかりだったので不安は大きかったが、三段ほどあるベッドはふかふかで美しかった。日本人の姿を見かけることは最後までなかったが、とにかく安宿を、と決めて、ドミトリーに宿泊した。その巨大な宿は、男ばかりかと予想していたが、女性の方が多いのは驚いた。しかし、それからパスポートを更新したりと、チケットを買ったはいいがとてつもない手間がかかることになった。

街は春の訪れに浮き足立っていた。私は朝食のパンを何個もバックに入れて、それを食べながら街を歩き回った。夜は通りにガス灯の光が灯り、青白い広場の路面に反射して美しかった。しかし地下鉄に乗ると、こんな私のことを狙ってくる犯罪者も多かった。息苦しいと感じる人も多いかも知れない。このような庶民的ではない街で、本屋をのぞき込むと、その本の著者によるサイン会が静かに行われていた。そして時々、私は長いサンドイッチを食べ、そして、セーヌ川を眺めた。夜になると、ホテルの近くのトルコ料理屋でリーズナブルな料理を食べた。大理石の建物はあるけれど、庶民的な娯楽といえるものは通りには皆無だった。


散文(批評随筆小説等) 春のパリ Copyright 番田  2015-08-30 23:06:53
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