耳さらい
そらの珊瑚
わたしたちが集めていたのは
瓶ビールのふただった
父の晩酌のたびにそれは
どちらかの手に入る
栓抜きでこじ開けられた痕は
同じ方向にひしゃげて
それは何かを証明するように
ひとつとてその刻印から
逃れるものはなかった
真新しい王冠は
今もわたしたちの手の外側にある
王の冠は
急速に色あせてゆくだけの
多くの流行りと同じように
ゆくえは人知れず
その取り分をめぐる弟とのいさかいや
ささやかな夕餉の献立
豊かな時間の静止画の
細部は失われてしまったのだけれど
夏の終わりに
澄み放たれた暗闇から
耳さらいが帰ってくる
遠いはずの記憶がとても近くなる
父と育てた鈴蟲の
高くふるえ合う声がふたたび
夜の耳の奥で鳴き始めた