星の人
ひさし

祖母と母のお産に付き添ったことがあります。

母の横で寝られないさみしさから、

大声で泣き、だだをこね、母や祖母を困らせたことを憶えています。

ワタシは筋金入りの甘えん坊でした。


困ったちゃんねェ。

お星さまを見ようか。

祖母に背負られ、産院の中庭へ。

無事に赤ちゃんが産まれますように。

祖母は仏壇に手を合わせるように、星々に頭を下げる、そんな人でした。

星の人。

オリオンを教えてくれたのも、

北斗七星やカシオペア、北極星の見つけ方を教えてくれたのも祖母です。


どうやって朝になるか知ってるかい。

お月さんがクルリと裏返って、お日さんになるんだよ。

うそじゃないよ。おばあちゃんは何度も見たんだから。

おぉ、何だか凄そうだ。その瞬間を待ちました。

見逃すまい……。見逃すまい……。

ですが、祖母の背はゆったりと心地よいリズムで揺れます。

子守歌のささやくような優しい歌声と相まって、

その催眠効果はいやが上にも高まります。

案の定、クルリを目撃することは叶いませんでした。

目覚めた時には、妹が母の胸でオギャー、オギャーと泣いていました。


テニスボールがそのまま裏返る空間。

宇宙にはそんな次元の空間があります。

何かの折に教えてあげようと思っていました。

知ってるわよ。

右の手袋を裏返して、そのまま右手にできる空間もあるのよね。

ひぇー……。

どうして、そんなことまで知ってるの。

祖母は私の声まで裏返すのでした。




散文(批評随筆小説等) 星の人 Copyright ひさし 2015-08-20 23:26:31
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