金属かも知れない
千波 一也


汗にはにおいが有る
涙にもにおいが有る
汗も涙も
わたしの何かと
よく混ざるのだろう
ときに
錆付いたような
においが鼻につく

陽にあたればにおいがこぼれる
寝息のなかにもにおいがこぼれる
わたしの何かが揮発して
ときに
鉄のような味わいの
渇きが満ちる

わたし、金属かも知れない

花には花の匂いが有る
潮には潮の匂いが有る
それらは決して錆びたりしない
渇きもしない
けれど
確実に
その場かぎりで消えてゆく
わたしの知らない方法で
わたしを残して
消えてゆく

悲しみにはにおいが有る
喜びにもにおいが有る
酸化のような
劣化のような
その濃度は
命の年月に比例する

わたし、金属かも知れない






自由詩 金属かも知れない Copyright 千波 一也 2015-08-18 22:17:49
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