幽霊は、足跡を残す。
梓ゆい

私は、怖い話や怪談が大好きだ。もしかしたら、詩よりも怖い話や怪談が好きだと言っても過言ではない。怪談関係の作家に、怪談史家・小池壮彦(こいけたけひこ)さんと言う方がいる。その怪談を前後の歴史から読み解いて、何があったのかを本にしてきた方だ。この文章の題名も、小池さんの著書から拝借した。
8月ということで、一つ思い出した話がある。せっかくだから書いてみよう。

題・山道

ある家族連れが、ドライブで人里から少し離れた山間部の道を車で走っていた。時刻は夕方、もうすぐくらくなろうかというその時スーツに書類鞄と言う山を歩くには不向きな服装をした男性が歩いているのが見えた。何で、こんな所を歩いているのだろうか?きっと、駅とは逆方向に来て迷っているのだろうか?等と奥さんと話した末、声をかけて見ることにした。男性に近づき、声をかけようとしたとき助手席の奥さんが「車を止めないで!そのままいって!」と怖い顔で言い出した。「何でだよ!」納得出来ない旦那さんは、少し怒って問い詰めようとしたが、奥さんは「絶対に車を止めるな!見なかったことにしろ!」の一点張り。
男性の横を通りすぎ、少しした際何があったのかを聞いてみた。
声をかけようと、車を近づけた際男性がよれよれでかなり汚れたスーツである事に気づいた、えっ?とおもってよく見たら、スーツは血と泥で汚れている。驚いて、全身に目をやると靴を履かずに歩いていた。
何が可笑しいと思い、旦那さんを制したという。
そんなバカな。と軽く流していた旦那さんだが、ふと後ろの方が気になりバックミラーを覗いた。
すると先ほどまでは男性一人だったのに、沢山の人が後ろを歩いている。
スーツを着た男性、白いワンピースの女性等皆明らかに山を歩くには不向きな服装をしており、誰一人として靴を履いていない。
旦那さんは、黙って正面を向くと冷静さを失わぬよう車を走らせ、麓を目指した。後になって解った事だが、その昔この近くに飛行機が墜落し沢山の人が亡くなったという。

何故、ここに出てくる幽霊は靴を履いていなかったのか?
飛行機が墜落する直前、客室乗務員が緊急着陸に備えて安全姿勢を取る様に乗客に指示をした。その際、かかとが高い靴等を含め万が一の状態に備えて靴を脱ぐよう指示を出して居たためだと言われている。
また、この現場に立ち入り許可が中々降りなかった理由の一つに、荷物の中に医療用の放射線が積まれていて二次被害を懸念した為だと言う話もある。
この飛行機のパイロットは、自衛隊を経て旅客機のパイロットとなった。相当腕が良い方で、尾翼を失い制御不能となった機体を人里から遠ざけた上で少しでも安全に着陸出来る様に建て直しを行っていた。本来なら、全員即死しても可笑しくない大惨事だったのに何人かの人が奇跡的に救出された。
これまでに、事故を風化させぬよう、事故の記録を残した展示・教育施設が設置され現場は綺麗に整えられ、新人は必ず現場を訪れ掃除や整備を行いその会社のOBや会社も、自治体と共に守り続けている。
8月の慰霊には、この事故の遺族だけでなく様々な災害や事故の遺族も訪れている。
怪談や怖い話は、見方を変えれば教訓や歴史を今に伝え風化させぬ力を持っていると改めて考え始め、好きになっていった。


散文(批評随筆小説等) 幽霊は、足跡を残す。 Copyright 梓ゆい 2015-08-17 00:30:24
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