木曜日の図書館
藤原絵理子


熱い日ざしが 爽やかに木の葉を青く染める
夏休みになって 少し賑やかになった
迷惑なような 嬉しいような顔
普段は老人ばかりの 閲覧室の空気

戦争中のことを書いた本を広げて
いつかの夏を ノートに書き写している途中で
座ったまま眠り込んでしまった 老人はたぶん
少年になって 暑い野山を駆け回っている

インクが見えないほど使い込んだ
透明な軸のボールペンが
机の端まで転がって 落ちそうで落ちない
浅黒く焼けて染みの浮き出た 手の甲は乾いて

向かいの席の少女は スマホに夢中
広げた宿題もそっちのけで 見知らぬ老人など
目に入ってないようで 気にしてるようで

彼がびくっと動いた振動で とうとう
ボールペンは床に跳ねて 少女の足元に
しょうがないなあ という感じ

床に落ちたボールペンを 拾い上げて
無造作に 老人のノートの上に
目を覚ました彼に 不思議な微笑を投げた


自由詩 木曜日の図書館 Copyright 藤原絵理子 2015-08-15 21:46:24
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