時として、歌
由木名緒美

惜しむほどには熟れていなかった
玉虫色の果実は真空の夏に閉じ込められている
暗い闇を掘り進めた結果が
闇そのものに対する妥協
肩に置かれた白骨のカルマを
慰めに思う程 足場を失っていた

気貴い横顔が恥じ入る
たとえそれが本来の姿であったなら
迷うことなくあなたに微笑むだろう
求めるあまり、引き千切った享受
狼煙をあげて合図する彼の人だけが水平に世界を横切った

幸せを奪い合う結果がほら、
最少単位の会釈すら断絶するでしょう
いだき合う渇望は陽を浴びれば溶けてしまうから
冷たい背中に匿っている

声に見放された歌い手は
響くことのない譜面を口ずさみ
幻の音階に朝を委ねる
その声の象る神秘性を
この目でしかと見届けたいから
静寂の産み落とす真空の神秘を
鼓膜のベールで抱擁させて

耳に届くのは騒音ばかり
ならばこの静寂の庇護の中で
あなたと伝え合える詩編の温もりに身を捧げていたいのだ


自由詩 時として、歌 Copyright 由木名緒美 2015-08-13 23:24:46
notebook Home 戻る