時として、歌
由木名緒美
惜しむほどには熟れていなかった
玉虫色の果実は真空の夏に閉じ込められている
暗い闇を掘り進めた結果が
闇そのものに対する妥協
肩に置かれた白骨のカルマを
慰めに思う程 足場を失っていた
気貴い横顔が恥じ入る
たとえそれが本来の姿であったなら
迷うことなくあなたに微笑むだろう
求めるあまり、引き千切った享受
狼煙をあげて合図する彼の人だけが水平に世界を横切った
幸せを奪い合う結果がほら、
最少単位の会釈すら断絶するでしょう
いだき合う渇望は陽を浴びれば溶けてしまうから
冷たい背中に匿っている
声に見放された歌い手は
響くことのない譜面を口ずさみ
幻の音階に朝を委ねる
その声の象る神秘性を
この目でしかと見届けたいから
静寂の産み落とす真空の神秘を
鼓膜のベールで抱擁させて
耳に届くのは騒音ばかり
ならばこの静寂の庇護の中で
あなたと伝え合える詩編の温もりに身を捧げていたいのだ