この指とまれ
卯左飛四


この指に「とまれ」と名前をつけたら
隣り合っているほかの指には、やはり
「とまら」「とまり」「とまる」「とまろ」
と、五段活用させて名づけるべきなのか
あるいは
「すすめ」「まがれ」「うたえ」「おどれ」
と、動作動詞命令形でそろえる方がいいのか
いやいや
「あまれ」「ふまれ」「せまれ」「かまれ」
と、すべて「まれ」で韻を踏んでみるのも面白い
かもしれない
かもしれない、が
「とまれ」と差し出した“この指”に
何もとまる様子はなく
引っ込みの付かなくなった“この指”は
たいそう決まりが悪い
ほかの指だって
自分につけられた名前からは
いずれにしても“この指”にとまるなんてことは
到底不可能で
どうしてよいものかと
もじもじ居心地悪そうにその身をよじらせる
きっと
「とまれ」といって突き出した“この指”が
天を向いているためじゃなかろうか
普通、地に向けて差し出す人もいないけれど
あまりにもつんときりりときっぱりと
空を仰いでそびえている“この指”に
みんな近寄りがたいのじゃあるまいか
お釈迦さまは、生まれてすぐに
「天上天下唯我独尊」といって
天と地を同時に指差されたというではないか
それなら
“この指”以外の指を一緒に、地に向けて差し出そう
しかし
「とまれ」と名づけてしまった“この指”を
使ってしまった後で
いったいどの指を出せばよいのだろう
私が迷う間も“この指”は
しきりにその身の孤独を恥じながら
つんときりりときっぱりと
天を仰ぎ立ち尽くしたままで、いる


自由詩 この指とまれ Copyright 卯左飛四 2003-11-09 21:05:24
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