ヘルペス
卯左飛四


ある朝 鏡を見ると
もうひとつ 口ができていた
口の横が 赤く腫れて
みるみる膨れあがり
ぱっくりと割れた
もうひとつの口は
本物の口より大きくなった

もうひとつの口は
思いもよらないことをよく喋る
世間のこと 他人のこと
この上なく口汚く罵る

よく喋るから よく食べる
食べ物を大きな口一杯に頬張るから
本物の口は引き攣られて きりり と痛む
頬張った口で 口汚く罵るから
本物の口は哀しくなって きりり と痛む

お腹一杯になったら
もうひとつの口は大欠伸
暢気なもんだ
本物の口は歪められて きりり と痛む

こんな口じゃキスもできやしない
もうひとつの口が邪魔をするから
でも
他でもない 貴方がくれたものだから
きりり と切なくなって
本物の口は少しだけ 泣く


自由詩 ヘルペス Copyright 卯左飛四 2003-11-09 20:45:24
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