横浜港にて
ヒヤシンス
港町を照らす外灯が昨日の過ちを優しく包み込む。
日ごと繰り返される真夜中の徘徊に彼は意識を組み込もうとしている。
苦しみは土着し、天を仰げば悲しみに満ちていた。
振り向くと死が彼の背中にびっしりとこびりついている。
港では貨物船が停泊し、眩い光の中いまだ人々が蠢いている。
彼はベンチに腰をかけ、気の知れた煙草に火を点ける。
長い時間をかけた一服に心が和んでゆく気がした。
ただただ日常に戻るのが嫌だった。
先の見えない夜は不安で胸が苦しい。
大切さは分かっているのにこの一瞬を無駄に生きる。
無意識の中、空回りした意識が宙を舞う。
コンテナを積み終えた貨物船が港を後にする。
散り散りになってゆく人々を見た彼の目から涙が零れる。
外灯の光に照らされた煙草の灰だけが彼の目には優しく映る。