消失の夏術
ただのみきや

木影に影を重ね 静かに見送る 
蟻たちに運ばれて往く
ことば 肉から零れ落ち

    熱い 取っ手を掴んだ

わたしは夏に生まれた
きっと夏に死ぬだろう
光の色彩が教えてくれる

深い昏睡のなかの
       ひとつの気泡
       ひとつの宇宙
不法投棄された魂の群れがくっきりと
   はっきりと 幻を得る

    世界の末端の
ひとつの黒い 端末が
       誰かの手の中で震え 
       破 裂  し  て

わたしは夏に生まれた
きっと夏に死ぬだろう
渦巻く草木が教えてくれる


 《右だ もっと左 あと少し前
 輝き 寄せる波と飛沫
 限りなく 停止しかけたもの
 本当に解らなくなった
 《右だ もっと左 行き過ぎだ
 右はこちらから見て右なのか
 左は向こうから見て左なのか
 本当に解らなくなって
 渾身の力で振り下した
 なにも無い 熱い砂が
 幼い意思も願いも力も吸い取って
 尚も焼けていた
 完全に停止した
 
   海 う み  う う う み  


 熟れ 落ちる 木から 実が
   踏まれ 甲虫が 潰される 車に

死という 痕跡 いのちの 残して
失踪する メモリーから あなたは

 空白に 描かれた窓 誰一人として  
   壁が
     一点に
        奇妙で
           燃える
              坩堝だ
                 向日葵の
                     つめたい   
                         Yellow……


残りは蟻が持ち去る
     太陽が乾かして
     風が拭い飛ばし
     雨が洗い流す

わたしは夏に生まれた
きっと夏に死ぬだろう
ひとつの蜂が脳裏の真っ青を引き裂いて

     《その胡桃なかは喰われて空っぽ

古いビルが爆破される
ただ内側に崩れ落ちる
ああ同胞 わたしの愛 

   子供たちが走って往く
    ゆっくりと音も無く
     光の中から現れて
    光の中へ消えて往く

どの顏が薔薇の蕾だろう
みんな光に切り取られ
抜け落ちた歯のよう
どうして

      逆光で微笑む女
    砂漠の夜の顔

わたしは夏に生まれた
きっと夏に死ぬだろう
いのちの嵐に 死は 舞踏する――

    四次元に結晶する
  いのちは 
死の手中から消
      失
      す
       る
         
        煙
           
          の
         
          よ

           う
              
                
               に




    
           《消失の夏術:2015年7月18日》









自由詩 消失の夏術 Copyright ただのみきや 2015-07-20 18:45:27
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