変奏曲
やまうちあつし

兄が建てつけの悪い窓を開けると
光がよいしょ、と部屋に入ってくる
光は物珍しげに
部屋の中を見渡して言う
「ずいぶんおかしな所に住んでるね
 一日中しめきって
 じめじめしてるし、かびくさい
 まあいい、こうして窓を開いたからには
 お前も今から旅人のひとりだ
 次はお前の中に入れてくれないか
 くらいところへ、くらいところへ、
 むかってゆくのが使命なのでね」
兄はどう返答したものか
口ごもっていたが
やがてシャツのボタンを外し
胸元を開いた
そこにある窓
光は無遠慮にそこを開け
よいしょ、と中へ入ってくる
光で
からだが満たされる
(今日は第三木曜日、異国の祭りが始まる日)
気がつくと右手はペンを握っている
いったいどこでもらっただろう
兄は近くの五線譜を引き寄せ
同居している弟に声をかける
窓は開け放しておいてくれ
いつでも
紙飛行機を飛ばせるように


自由詩 変奏曲 Copyright やまうちあつし 2015-07-16 18:33:35
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