わたしが詩の中で掻き抱くあなたは
ただのみきや

朝陽から刈り取って食卓に供えられた獅子の首
金色は瞬く間にとけて白い皿に蒼く翳りを残す

あるいは初めから造られなかったニケの頭部
永遠に像を持たない神聖 あらゆる問であり答え

あなたは言葉ではない 鋸で引かれ火炙りにされて
人はあなた殺すが残された死体は常にあなたではない

胸に顏を埋め魂の内側を柔らかく噛んで 不意に
激しく引いてわたしを裏返す 唇の毒が無意識を呼び覚ます

あなたの髪の匂いを知っているたとえ白い蝶になっても
老いた娼婦の姿でも一筋の光の旋律として訪れても

わたしの恋を吹き消したあなたは嫉妬深い神殿の空白
地と日の果てを彷徨うわたしは盲目にも魅せられた盗掘者

あなたはインコを食べる光と闇の混濁に蒼を靡かせながら
極彩色の囀りの群れが舌の上で蕩けている

わたしは歌を失くしたウシガエル 静物となり
瞼の裏の砂浜で波に消え去る遺書を連ねている

あなたはイメージの連鎖爆発 閃光 言葉より早い
わたしは少年のまま老いて往く岸辺の流木が乾くように

暁と日没 月の満ち欠け 死と再生の儀式が繰り返される
蒸留した霊をグラスに注ぐあなたの匂いを数滴垂らし指で弄ぶ

夏の陽射しの中で朝顔のようなあなたを見た
暗く狭い路地から飛び出して過去を踏み拉き追いかける

四辻のいつも対角にあなたはいる赤信号の向こう日傘をさして
ナイフを咥え震えているこの愛は飼い慣らされた狂気のレモン

刹那 斜に眼差すその笑み憎らしいほど艶に仇なす血文字と化して
ああ掻き抱くその首は香しい匂いを放ちそれはすでに

あなたではない詩体 あなたの包装紙 あなたの鱗粉
満たされない恋情だけがわたしの取り分



         《わたしが詩の中で掻き抱くあなたは:2015年6月13日》








自由詩 わたしが詩の中で掻き抱くあなたは Copyright ただのみきや 2015-07-11 21:15:35
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