雨が降りつづいている
yo-yo

もう止まないかもしれない
そんな雨が降りつづいている
街も道路も車も人も
みんな水浸しになっている
ほんとに誰かが
大きなバケツの水をぶちまけたのだろうか
梅雨の終わりの最後には
雨の神さまがバケツを空っぽにして騒ぐんや
そう言ってた祖母はいまや雨よりも高いところにいて
ぶちまけた水で溺れそうになった父も
すでに雨の向こうへ行ってしまった

裏には山があり前には川がある
年老いた母はひとりぼっちで泣いているかもしれない
家財道具を二度も川にさらわれた
タンスやフスマが流されてゆくのを呆然と見ていた父が
海釣りの竿が浮いているのを見つけて
慌ててどろ水のなかに飛び込んだ
がらんどうになった家の中に残ったのは
壊れた冷蔵庫と釣竿だけ
あれから父は
黒鯛をなんびき釣っただろう

生き残った人間だけが水浸しになっている
もう魚になって生き延びるしかないかもしれない
山が崩れ家が埋まり橋が壊れる
雨戸を閉じて母は川の音を聞いている
山の音を聞いている たぶん
誰も帰ってこないと嘆いている たぶん
雨が降っても降らなくても嘆いている たぶん
電話の呼び出し音が鳴っている
痛い痛いと腰を曲げたまま母は立ち上がる たぶん
急に起きたので貧血でぼんやりしている たぶん
黒い受話器まであと数歩 たぶん
それともすでに
母もまた雨の向こうまで行ってしまったか
電話の呼び出し音はつづいている
雨も降りつづいている






自由詩 雨が降りつづいている Copyright yo-yo 2015-07-04 15:48:38
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