大洪水のあと
葉leaf




洪水が激しく流れたが
それに先立って激しく流れた風景の束があった
音響が激しく鳴り響いたが
それに先立って激しく鳴り響いた光の板があった
先立つ抽象的な激流によって
地上の生物の本質はすべて抜き取られて
本質無き大地の上を
洪水と音響はただ論証のように滑っただけだ
論証のあとにさらに流れていった私の手指たち
私の指は幾万本となくがれきの墓標となった

何も破壊などされていない
唯一、破壊という現象が破壊された
何も失われてなどいない
唯一、喪失という推移が失われた
静寂と痛みとはまったく同義であり
限りない痛みの原野は限りなく静かである

洪水は生き残った者たちによってその覚醒が同意された
洪水には無根拠な共感が次々と寄せられた
だが洪水はついに真実にはならなかった
激流も音響もすべて虚構だった
あらゆる人間の同意を取り付けても
なお虚構であることに耐えられること
大洪水とは虚構の大水が現実に流れること
そして私はこの大洪水で幾万回と殺され
幾万回と生まれ変わった
すべての地上の生物だった


自由詩 大洪水のあと Copyright 葉leaf 2015-07-04 12:30:25
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