◎価値を洗う
由木名緒美

価値を洗う

匿われた秘め事に添えられて
命の枝葉を派生させてきた
夜の露の中でしか満たされない静寂を
静かに土中へと引き寄せる

裏切りの奥を問い詰めれば
逃れられない渇望と
分かち合う非力な求心力
汚れた水で顔を洗う夜
タオルは罪と石鹸の甘い香りで
いつまでも顔をうずめていたかった

夜はいつ朝を透過するのか
宇宙が体積を支えきれずに破綻してしまう日には
星は解き放たれる栄華を歌い
太古から来世紀へと すべての正誤が質される
深遠に眠る恒星の目覚めが
己の虹彩の奥でささやかな反射を描く様を
すべてが崩落した後にようやく届く
ただそれだけのこと

ネオンの洪水のほとりで
樹齢千年の大木が黒い幹をうねらせる 
その幹に巻き付く貧弱な若木は
数字と虚妄の吐き出す街のスモッグから護るように
宿主に絡まり、一体化する
根元にうずくまる家出少女の呼吸を慰撫しながら
敗れた夢を孕み駆け抜ける終電に葉を躍らせた

目に映るもの すりぬけるもの
両者の間に濁音はなく
痺れるような陶酔に身を任せた後は
虚しさの続く帰り道で裏切りの本心に出逢うこともある
築き上げるより原型を捲って
やっと掲げ持った貴い清明を
磨き上げた無価値の元で
ただ一つ名付けることが出来たのだから







自由詩 ◎価値を洗う Copyright 由木名緒美 2015-06-27 02:01:23
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