夜空を夢が流れて
イナエ


熱帯夜に
惑わされて腐乱した睡眠から
止め処なく垂れ流れるゲルは
黒い卵を内包していた

寝息が言葉に染まって
過去の幻像を描くとき

醗酵したゲルは悪臭を放って
野を枯らし 街を枯らし
人を浚って 
国々を吹き抜けていく

 熱気の淀みに落ちた卵子は
 ゲルを抜けだし はだかになって
 不規則な細胞分裂を繰り返し
 未熟なまま発芽した

 闇の中で成長する黒い芽
 やがて空を覆い 
 星を隠し
 髪振り乱して 
 垂れた乳房が
 黒い炎を上げ
 都会に襲いかかる 

群立するビルの先鋒は
黒霞に舐められ しゃぶられ
したたり落ちる涎が
蓄熱した屋根を
転がって弾け散り
夏の夜宙(そら)に
弾痕を穿つ


自由詩 夜空を夢が流れて Copyright イナエ 2015-06-14 21:08:50
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