写真
為平 澪

写真になった父が 昔よりよく喋るようになった
弘法大師ゆかりの寺で ボロボロのジャンバーに
白髪を風に舞わせながら 少し笑ってピースなんかして
誰もいなくなる家を前に大丈夫、だというふうに
哀しく細い目を向けて 泣きそうなくらい優しく笑っている
そんな喋り方をする父を前に 私はどうしていいのか泣いてしまう

  お父さんほど私を放ち信じてくれた人はいなかった
  私が心配ばかりをかけさせて殺してしまった

いつ誰とでも帰ってきてもいいように家の周りのドブを浚え
畑には少しばかりの野菜を植え 庭の剪定をふらつく足でし
私の帰る家が笑われないように、居心地がいいようにと
黙って家を片付け掃除をして 帰らない子供たちを待つ父

  うすっぺらい写真に貼り付いたまま、家のことなど
  饒舌に語ってみせる
  ( どうだい、お前の四十年住んだ我が家の居心地は

左手のピースの指は二本
息子は家を出て行って 娘は家に帰らない

それでも立て続ける指二本、
育てた二つの平和は誇り
家を護る父の顔
仏様になってゆく父の顔

どんなに泣いても笑っても
見守っているよ、と父の顔



自由詩 写真 Copyright 為平 澪 2015-06-10 14:10:17
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