へびか靴紐
そらの珊瑚

小さなへびかと思ったら
いつかちぎれた
しましま模様の靴紐だった
だとしてももう
それをくぐらせるズックの穴がない
わたしにはもはや必要ないものだったので
さよならを言って
立ち去るくらいしか
選択肢はない

梅雨の前の草むらは
ほどよく乾いて
青々としているから
うっかり時空が入り混じることもあるし
こんなふうにして
失くしものが偶然見つかることもある
それが誰のものであるかなんて
実はたいした問題ではなかったし
娘は実によくいろんなものを拾ったものだった
それに名前を書いたにせよ
いずれ月日の魔法で溶けてしまう
小石にしたってそう
楕円の形の花崗岩を
恐竜の卵だと言い張って
娘はそれを大切に持ち帰り
しばらく身のうちで温めていた
 
 小さな手
 汗ばんだ熱
 孵化したばかりのような柔らかさ
 そのくせ強い握力
 薄く透ける爪

 ちらのざうるすは、おともらち

大切なものほど
さよならさえ言わずに
去ってしまうものなのだ
あるいは
隕石の衝突で一瞬のうちに消えるとか

そうしてまた懲りずに見失う
先ほどの草むらにはもう何もない

へび、だったのか


自由詩 へびか靴紐 Copyright そらの珊瑚 2015-05-31 12:33:19
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