紀伊国屋
Lucy

何年も前の事だけど
「紀伊国屋なう」というメールを
貴方がくれた
その時は
電車に6時間も揺られなければ
紀伊国屋のあるその街へ行けない土地に
住んでいたから
「今その町に私がいれば、
紀伊国屋にすぐ行ってみるのに・・」
と、返信した
そしたらあなたからまたメールがきて
「ごめん、紀伊国屋に行こうと思ったんだけど
実はジュンク堂に来ています。」

紀伊国屋でもジュンク堂でも私にとっては同じだったが
なぜだか
今でも紀伊国屋に行くと
偶然貴方に会える気がして
私はろくに本を見ないで
客の顔ばかり眺めながら
広い店内をうろうろする

約束して
待ち合わせをして会う元気はなく
だけどばったり会うのなら
きっとあなたは半ば困った顔をして
他人行儀な挨拶をして
二階のスターバックスで
珈琲でも飲みましょうかというかもしれない

スターバックスに
今あなたがいる
文庫本を手に
少し甘めのカフェモカでも飲みながら
窓際の席に
プラタナスの葉影に肩を撫ぜられながら
明るい午後の日を浴びて
一人座っているのかもしれない
そんな絵を想い浮かべると
私は貴方に今とても会いたいのだと
切実にそう思えてくるから
スターバックスはのぞかない

児童書のコーナーへ行ってみる
前に私が薦めたショーン・タンの絵本を
そこで立ち読みして
すぐに買ったと言っていた

メールも電話も
途絶えたまま

つまり神様があわせてくれるという
甘い免罪の可能性だけが
たゆたう書架の間の迷路で
私は今日も 貴方を探す









自由詩 紀伊国屋 Copyright Lucy 2015-05-30 00:49:41
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