With 「Forty Licks」
ホロウ・シカエルボク





きみの瞳に隠れている世界のワナ
欺瞞の眠りを泳いでおれは
夜が明けるころには疲労困憊さ


キャロットとハチミツでこしらえるジュース
チーズを存分に溶かしたトースト
FMは囁くようにバロックを流して
おれはそう、ロックしたいとうなだれているばかり


夜明け前の消防車のサイレン
まるで隣近所が炙られているようなやかましさ
水のにおいと焦げるにおいが流れてこなかったから
うろたえることはなにもないんだと気づいてまた眠った
コンビニ全焼だってさ
初音ミクが焼け焦げていた


なにもすることがなく、あるいは
なにをする気にもならなくて
ストーンズを聴きながらぼんやりとしている
一日中太陽に炙られて
人間味は蒸発してしまった
詩なんか書きたい気分じゃない
そんな詩を書くしかない


ろうおうおうりん、と
ミック・ジャガーがこねくり回す
ころがせ、ころがせ、ダイスをころがせ
たったそれだけのフレーズが
世紀をまたいでリアルに存在し続けている
ああ、ミック・ジャガー
あんたは預言者に違いない
あんたに見えないものはない
女を繋ぎとめるやり方以外は


乱暴な晩飯のせいで睡魔は氾濫している
眠りたいのか眠りたくないのかよく判らない
詩なんか書きたい気分じゃないという詩を書いていると
ますます自分がなんなのか判らなくなってくる
だけど、そう
混乱して
氾濫して
着地点を探す夜の方が
自惚れている夜よりはやることが多いのも確かさ
個人の主張なんて
証明出来ないのならどんな意味もありゃしない
そこに
責任を持たないのなら別だけれど


失われたプールの夢を見る
どこかの山の上にあって
古臭いセメントで出来たプール
更衣室のドアは腐って倒れていて
深めの水溜りの中で時々揺れて
軍人の足音のような音を時々立てている
水はついぞ変えられたことはなく
緑色で
おぞましい生物を思わせる気泡がそこらで弾けている
いい天気なのに
なにも乾いていない


飛び込み台に座ってそんな水面を見ていると
混沌は自分で作り出すべきなのだという気がする
あらゆる作家がやたらと飛び込みたがるのは
そのことを知ってるせいだって


太陽は真上にあり
汚れた水面でゴッホのタッチになり
嫌な匂いがして
だけど、それは
確かにそこにしかないもので


ねえ、おしまいのプールを見に行こう
エンジンをかけてさ
そこにしかないものを見に行こう
汚れた水面を見つめて
嫌なにおいを嗅いで
そんなものを見たことがない連中の先へ行こう
新しいところへ飛び込もう


イッツ・オンリー・ロックンロール
オールド・ニューなフレーズ
信じるものが神になったらおしまいだ
絶対的な存在になったら
ミック・ジャガーは
いつだって冷静にイキり勃っている


ダラダラしてんだよ、落ち着いてくるぜ
眠いかどうかなんて知ったこっちゃない
必要とあればまぶたは自然に落ちてくるものさ
いまはただやらせてくれ、やらせてくれ、やらせてくれ
自分がなにをしたいのかなんてエクセルに打ち込む必要はないのさ
たかが人間、そいつをまっとうしたいだけ
他人の唾なんか放っとけば乾くからね


ちょっと待っててくれ
キッチンを片付けてくるから
そのまま明日の米も炊いちまうかもな
続きを書くかどうかなんてそれから考えるさ
決まってることなんかないほうが正しいんだ






自由詩 With 「Forty Licks」 Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-05-26 20:39:57
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