サイダー
アンテ


境内につづく階段は長くて
手をつないでいると
歩きにくいのに
離したら二度と会えなくなりそうで
はじめて着た浴衣の
袂をゆらしていた
あれは
いくつの夏だっただろう

抱きかかえられて
屋台の氷水の入れ物に
手をのばして
不安そうに振り返った少女に
母親がささやきかける

炭酸は大きくなってからね
いさめられたのは
あれは
いくつの夏だっただろう

海からの風が気持ちいい
電灯の明かりが
連なって街路樹を照らしている
夏の夕暮れが
名残惜しそうに藍色を引きずっている
きっと
花火がはじまる前に
力つきて眠ってしまうだろう

少女が笑う
母親も笑っている
恐る恐るつかみ取ったビンは
ひんやりと冷たくて
浴衣の肩を抱き寄せられたことに
しばらく気づかなかった

サイダー飲みたいな
自分の声にびっくりして
となりを見る
これは
どっちの夏なのだろう
笑ったあなたの手が
ひょい と
屋台の氷水から
ビンをふたつ取り出す
もう大人だって
言ってもいいかな
透明なビンのなかで
炭酸がはじける

花火の音が
突然はじけて
歓声が上がる

またひとつ
夏が終わる



「Poison」 #2
inspired by ぽわん 「サイダーの泡、恋模様」


自由詩 サイダー Copyright アンテ 2015-05-22 01:00:29
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Poison