笹子峠
西天 龍

日曜の団らんを切り上げ
赴任地に戻る旅をもう10年も続けているが
笹子峠への山峡は思いのほか狭くそして暗い
谷の向こうを並走する列車に揺られ
微睡んで帰ればいいものを
旅の憂鬱を忘れたくて
1週間分の洗濯物の重さ口実に
ついハンドルを握ってしまう

中央線はわずかなヘッドライト頼りに
人のいない窓明かり連ねて
笹子川を縫うように登って行く
鉄橋にかかるとまるで銀河鉄道のようだ

並走する小さな車を見つめている
明日早朝からの仕事を思い悩み
何とか今日中に布団にもぐりこもうと
急坂を連なりあるいは競いあって登って行く
そんな自分を見つめている

安堵に降り立つプラットホームのない旅
ぽっかり開いた
真っ暗な穴のあるリアシート見ないふりをして
アクセルを踏み込む旅
いつどこに行き着くのだろうか

やがてトンネルの光の奔流が一本になり
すべてを後方に押し流す
甲府の夜景が瞬くと目的地は近い



自由詩 笹子峠 Copyright 西天 龍 2015-05-16 11:59:00
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