テレビの中
itukamitaniji

テレビの中

子供の頃の私の口癖は 「テレビの中に入りたい!」だった
華やかな舞台の上で 踊って歌うアイドルに憧れて
親戚の前で物まね 未来のスターの誕生ね!って
皆が褒めてくれた 私はすっかりその気になった

物心がついた頃 私は生まれた街を飛び出して
憧れの都会へと出てきた 小さなアパートが私のお城
演技の稽古に歌のレッスン 空いた時間はアルバイト
くたくたに疲れる毎日 だけど全然苦しくなかった

いつか叶う夢の為なんだもの 何にも苦しくなんてない
私は未来のスターなんだ その言葉だけを信じてた


今日もオーディションに落ちた バイト中に電話をもらった
でも悲しんでもいられない 次があるからって言い聞かす
だけども次もダメだった その次もその次もずっとダメだった
重なってゆく落選通知に 次第に笑顔が消えていった

私は選ばれない人間? 未来のスターじゃなかったんだ
途方に暮れて歩いていた 都会の夜はいつまでも明るい
歓楽街の入口で どこかのエライ人に声をかけられた
俗に言うスカウトだった 選ばれたことが嬉しくて

私はカメラの前で裸になり なまめかしいポーズをとる
一斉にフラッシュが焚かれ 私の姿が切り取られる
エライ人は言う 「みんなやっていることなんだよ」って
いつか叶う夢の為に いつだって信じようとしてた


私の体に宿っている この心は一体誰のもの?
知らない間に 違う誰かにすり変わっていない?
手首を切って確かめた 一応まだ血は赤かった
私は間違っていない 間違っていないんだって


誰か言って。
ねぇ、誰か言って。



ビデオカメラの前で裸になり 裸の男に跨がって
泣き声みたいに喘ぎながら 腰を振り続けた
テレビの前で男達は いっせーのででズボン下ろす
私は何度も言い聞かす いつまでも同じ言葉を





いつか叶う夢のためいつか叶うユメのため
いつか叶うユメのタメいつかカナうユメのタメ
イつかカナうユメのタメイツかカナうユメノタメ
イツかカナウユメノタメ…


「イツカカナウユメノタメ?」





今日もひとり目を閉じる 小さなお城のベッドに倒れ込み
頭の中で響く歌 なんだか大事なものだった気がする
だけどどんな名前だったか もうなんにも思い出せない
もう眠らなくちゃ明日も 私はテレビの中に入りに行く


自由詩 テレビの中 Copyright itukamitaniji 2015-05-08 22:12:44
notebook Home 戻る