心まかせに
N.K.

不惑など疾うに過ぎた初老の男にとって
忘れ物に気付いたことは
捜し出すべきものが
茫漠たるサハラやゴビの砂粒の中に埋もれた
小さなダイヤモンドの様に思えた

とりあえず砂漠をイメージしてみるが
頭の中で砂漠は像を結ばない

世の中の忘れ物は
学校の職員室の一角や駅の保管所を
占拠していて
世界中の学校や駅の忘れ物保管所を合わせると
サハラやゴビに伍する事もあり得るなどと
気付いた現実から逃避を図りたいと思う

忘却物の紛れた砂漠と忘却からできた砂漠
互いにねじれの位置にある芒洋たる世界だ

昔から忘れ物の対応もせねばならない学校では
今時は修学旅行や語学研修という名称で
外国へ行く
外国に行くのならフランスに行ってみたいと
突然一人の学生が屈託なく言い出すのを聞いた

忘却の砂煙の中から
列車に乗り
窓に寄りかかる一人の紳士が浮かび上がる

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し


爽快な五月の緑にねじれの位置にあるものたちが交差する
愉快に私の中で交差する


自由詩 心まかせに Copyright N.K. 2015-05-05 00:30:35
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