狙われた街
アラガイs


××市役所からお知らせです。 本日職員を名乗る者から還付金があるので口座番号を教えてくださいなどと言う電話が市内にかかって来ています。もしそういう電話がかかって来たなら、くれぐれも注意するようにしてください。
××警察署からお知らせです。本日の昼前に××地区の××さん××歳が家を出たまま行方がわからなくなっています。××さんの特徴は……… 。

母屋に帰ってみると下水の蓋が開けられて母親が知らない業者と話込んでいた。(どうかしたの?何の用ですか?)わたしはできるだけ怪訝な表情で相手に尋ねた( あ、どうも下水道の調査なんですが、古くなった配管を調べているのですが…)普段からうるさいくらいテレビの音をつけっぱなしにしている母親だから、たいていは玄関先に誰が来ても気がつかない。そのくせこういう××セールスとか××業者になると何故か応対をしているのだ。
( これは、ちゃんと水道局を通しているのでしょうか?)作業着姿の男は下水の蓋を閉じると道具をてきぱきと片付けだした。( いえ、わたしどもは民間ですから。あのう…よければ名刺とパンフレットを渡して置きますので 、また何かありましたらよろしく…)。 男はそう言い残すと、小さな薄い紙に印刷されたパンフレットに名刺を一枚付けてわたしに手渡した。いかにも×の悪そうなタイミングに、母親への挨拶も忘れてスゴスゴと去って行った。
( 簡単に相手をしちゃ駄目じゃないか)と叱れば、(ああ、わかりませんから息子に、息子に聞いてみてくれと言っといた、、)そう言いながらさっさと炬燵に座り込む。訳のわからない電話はしょっちゅうかかってくる。その話を聞くたびに(相手をしちゃあ駄目だ。わからないではなく、要りませんと言って直ぐに切ればいい。)と叱る。これはいつもの口癖である。

毎日のように街の有線からは××詐欺に注意しましょうとか、××さん尋ね人の連絡が流れてくる。
その度に胸の奥に痛みがはしる。
悲鳴のあがらない痛み。内部からじわりとこみ上げてくる悲痛や怒り。
地方ではどれほどの街がこのような状況なのだろうか。
この辺りは工場区域である。人口が減少しているこの街も昼間は忙しない。知らないうちに工場も増えてきて知らない人間も増えた。
見馴れた顔の息子や孫たちの姿を見かけることもない。
ほとんどが引退した年金暮
らしの夫婦連れだ。
そして遮光と佇む荘庵の中には、一人暮らしの年寄りばかりが住んでいる 。










散文(批評随筆小説等) 狙われた街 Copyright アラガイs 2015-04-20 18:47:48
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