なびく丘で
かんな




にれは祠に奉られていた
遠い昔の話だけれど
少なくとも言い伝えられるだけの
価値があったのだとはるは言った

ことばの少ない子どもだった
幼い頃から空を見上げてばかりで
地上のことなど大して気にしていない
大人は可愛がったが
同じ年頃の子などは不思議がった

小学生になると
鳥居をくぐりに神社へ出掛けていた
出入口なのだと教えてくれた
この世からあの世へのなのかときくと
今から過去か未来へなのだと言った

にれは祠に奉られていた
石になっていた体を保つため
こころを石にしなければならなかったのだ
と大人たちにはるは伝えた

後ろ姿は悲しいが愛しい
青年になると好きな人が出来るものだと
勝手に世の中は決めるものだが
一生連れ添う人すら自ら決められない
恋など責任がないからできるのだ

想っている人がいる
黒髪に艶があり長くうるわしい
唇がつんとして気の強さを感じさせる
周りが反対したのは簡単に
狐に憑かれた狂った女だと騒いだ

この子は面白くいとおしい
空想をつらつらと並べる姿がいとおしい
助けてくれこの世から私を消してくれ
泣いて頼む姿がいつしか
手を離せない存在になっていった

女は言った
私と一生を共にすれば
休む間もなくひた走り地獄を見るだろう
どうかほうってほうっておいて下さい
まっすぐに見つめそして反らした

にれは祠に奉られていた
理由を探れば悲しくなるが
目的を探せばあたたかいとおもうと
大人たちにはるは教えた

まて
まっておくれ
離さない手が女を抱き締めて寄せた
知らない何もわかることは出来ないが
互いに歩み寄れる努力をしよう
男と女はただそれだけでいい

母親は目を尖らせて言った
ふつうのふつうの子が良い
父親は興奮ぎみに声をあげた
おまえたちは目を覚ませ

にれは祠に奉られていた
見つけたのがはるだったかもしれない
知ったふうに大人たちは
おとぎ話を並べたがったのだ

鳥居から過去へ行きたいと女は言った
小さな赤子に戻って愛されたいと
鳥居から未来へ行こうと男は言った
一緒に家族になればいいのだと
二人はやっと手を握った
強く強く手を握り大地に向かって立った

ただはるにれが風になびく丘で




自由詩 なびく丘で Copyright かんな 2015-04-13 13:43:31
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