どこかの庭で
ただのみきや
クロッカスは一斉に咲く
身を寄せ合って揺れている
つめたい春の風に
小さくなって震えながら
ちょっと離れて
鉢植えの福寿草 まだ一輪だけ
太陽の親戚筋とでも言いたげに
少々毒気のある一瞥
「群れていやがる
弱々しい奴らめ」
クロッカスは伝え合う
気持ちを余すところなく
共有しあって
揺れている
「ああ寒いね つめたいね
ほら少し陽が射してきたよ
あたたかいね 嬉しいね
いま触れたね ぼくたち触れた
風のせいだね 柔らかい風だといいね
同じ色だね 私たち
向こうのほうは違うね
やわらかいね きみ 一緒だね」
福寿草は黙って眺めている
風に欹てながら
時折さわさわ 独りごと
クロッカスの寿命は短い
数日で萎み 枯れてしまう
枯れる時もみんな一緒
福寿草は枯れずにいる
茎には細かな毛
少しだけ逞しくなって
「おれは太陽の親戚だからな
ひとりでも十分やっていけるのさ」
だけど時々訪れる
アブやハチにはずいぶんと親切だ
まるで
「まだ いいじゃないか
もっとゆっくりしてきなよ」
そう言っているみたいに
《どこかの庭で:2015年4月8日》