海とSINK
りゅうのあくび

太平洋戦争のあと
海底に眠り続ける
たくさんの機雷と
ともに朽ち果てた
駆逐艦は大海のひとかけらとなって
ゆったりと深く沈んでいる
真夜中の月は
もはや永遠に
届かない光となっている
生き残った水兵のひとりが
結婚して
母が生まれた
きっと昔に沈んだ軍艦の
SINKのなかには
漆黒の海があるのだろう

まるで海底を泳ぐ
深海魚を見つけたいと
一瞬のうちに思い始めるみたいにして
久しぶりに母と話をしていた
ささやかな結婚祝いの報せと
過去の話をするのが嫌いな
母の手料理があって
すべてのことはたぶん
綺麗に磨かれた
SINKともつながっていて
海が凪いだときのように
潮風の薫りと
少しだけ
塩味がほのかにあり
明日のために
夕食をほおばっている

深呼吸をすることができずに
とても動くことも難しい
海底では今がゆっくりと漂流するように
ゆったり苦情を話す母と
お互いの健康のことを心配しながら
いつもと同じように
年を取った母は夕刻にも
キッチンに健気に立っている
きっと遠くの海へとつながる
すべてはSINKのなかにもあって
僕らには静かな明日の
仕度をする理由がある
いつか大切な人と
海の見える港に行きたい


自由詩 海とSINK Copyright りゅうのあくび 2015-04-04 21:05:10
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