小糠雨
草野春心



  青年は日暮れに
  読みさしの新聞をとじた まもなく一日が終わる
  先刻さっきまで心地よかった空調がいまは窮屈でしかない
  握り固めた紙切れに似た 心のなかには何年も前から
  小糠雨がふりつづけている……引き攣った笑いのごとく
  幼い頃ショパンがくれた ささやかなときめきが懐かしい
  ヴィデオに遺るルービンシュタイン その歳に似合わず伸びた背中をいまは羨み
  青年は日暮れに 度の強い眼鏡をとり まったく降るあてもない
  ほんとうの雨が降るのを 待つことに決める




自由詩 小糠雨 Copyright 草野春心 2015-03-28 23:50:57
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