春の土
そらの珊瑚
種をまくという行為は楽しい
反面
どこにもいない誰かに
試されているようで
神聖な気持ちになる
この手にある幾粒かは
芽を出さないだろう おそらくは
皆が
花を咲かせるわけではなく
光を見るわけではなく
そのまま土へ還っていく者もあることは
自然の摂理に組み込まれている
それを知っているから
花はなるたけ多くの種を残そうとするのか
柔らかなわたしの手が微かに
地面を蹴って走っていた
よつあしだった頃の
個体の記憶を覚えている
この手は足でもある
触れれば
じわりと懐かしい
ぬかるんだ土から
地球を何周も回り
旅をして届けられた声がする
走れ
走れ
すべて許されて
戻ることのない時間を今、
生きて
種をまいているのだと