まっさらな本当の生まれるところ
ホロウ・シカエルボク





空気の亀裂に、カーペットの隙間に、サウンドの途切れたところに、うずくまり、拗ねた目で、こちらを見ている言葉たちの、首根っこつまみ上げて、ワードの空白にぶちまける、彼らの悲鳴が、ほら、自由な旋律を作り上げていく…言葉は心の、ままならぬところまで入り込み、名前のない感情を引っ張り出してくる、枯れた地面の底にある、唯一の水脈を引っ張り出すみたいに―それはちゃんと眠っている、呆然とした瞳のままで―それはワードの中で、名前をつけられる、確固たるものじゃなくていい、確固たるものなどなにひとつないから、そのときなんとなくそいつを表現しているような、一過性のものでいい、確固たるものなんかなにひとつないんだぜ、名刺なんか死ぬまで作らないのが正解だぜ…瞬間は表現される、瞬間こそが表現されるべきものだ、モチーフに防腐剤と凝固財をぶち込んで、テーマです、なんて仕上げるなんて馬鹿げてるんだ、防腐剤なんて夏が終わるまで持つことなんかないんだぜ、わざわざ腐りたいのか、わざわざ、終わったものになりたいのか、俺は確信になんてなりたくない、それは自分を腐敗させるものだ、いつのまにか、部屋の隅で、おがくずみたいな臭いを吹き上げてる感情の死体になんかなりたくはない、俺は瞬間のものについていきたいんだ―とかく世間は即効性をありがたがり過ぎる、それっぽいやつが人差し指でメガネを押し上げながら、詩人です、なんて言えばそいつが詩人なんだ、妙な本にしか載ってないカタカナ語でのべつ幕なし喋りたててさ…余計な口を開く前にひとつでも多く書くことだね、俺に言えるのはそんなことくらいさ、フィールドの外でやいのやいの言っていいのはマネジャーか監督ぐらいのものさ―瞬間は常に存在している、瞬間の呼吸とシンクロすれば、心の中にあるものをそのまま差し出すことが出来る、そこに思考なんてものは必要がない、俺は瞬間に接近したい、常に変化し続けているものに寄り添って、出来る限りの現象を言葉にしたいんだ、同時通訳みたいにさ…リアルタイムにここに刻んで行きたいんだ、そういうスピードが凄く俺を高揚させるのさ、効果的な配列なんて考えたくもない、そんなことはそこらへんの連中がみんなやってる―おまけに成功例はあまりない―なぜならそれはあまりにも様式としてなりたち過ぎてるからさ―理由のなくなったダンスの振り付けみたいに、ただここでこうするみたいなことだけが馬鹿正直に厳守されているだけさ、本来なら生贄を捧げるべき祭りみたいにさ、意味と目的を失って形骸化してんのさ…生贄っていい言葉だよな、俺は、こうしたことのすべては生贄のようなものだと思ってるんだ、捧げるのさ、えぐり出してさ…誰に?誰に捧げるのかって…?馬鹿なことを訊くね、贄を捧げるのは神様にって相場が決まっているじゃないか…それは俺だけの神さ、俺が投げ出すものには、いつだって俺だけの神がいるのさ、あんたが投げ出すものだってそうだろう、そのはずだろう、だからあんたは馬鹿正直にそいつを続けているんだろう?俺は俺の神を信じる、あんたはあんたの神を信じる、それだけさ、それ以上のことはなにもないんだ―ねえ、いいかい、方法なんてタカが知れてる、方法なんていつだってタカが知れてるんだ…お茶やお花みたいにさ、絶対の作法なんか持つべきじゃない、道具の用意をしている間にすべては遠く過ぎ去っていくんだ、方法なんていつだってタカが知れてる、信じてるもののことはもう適当に、おざなりにするべきだ、それは結果とはたいして関係がないものだ、判るだろう?うすうす感づいているんじゃないのか?信じているものなんて、そんなたいしたもんじゃないってことが…動くとき、吐き出すとき、差し出すとき、えてしてそんなものはなんの意味も持たないものなんだ、真実はそんなものとは無縁の場所にある、一番大事なのは、流れ出すものの邪魔をしないことだ、そのときそのときで、もっとも自然だと思える流れに身を任せることだ、これは、ある特定の事柄に限定される話じゃない、ある特定の事柄に限定される話じゃないんだぜ、見たこともないものだって、当り前みたいに流れるのが本当なんだ、新しい河の生まれかたは、一番古い川となんら違いはないはずだ、そう言えば理解出来るかな…新しいものは超自然的なものさ、あるものとあるものの計算された融合の結果などではない、進化すべきものは、なあ、土や水や骨にまみれて生まれてくるじゃないか?空気の亀裂に、カーペットの隙間に、サウンドの途切れたところに、そいつが生まれる理由がある、あらゆるものに爪を引っ掛けるような気持ちを持たなくちゃ駄目だ、そいつを俺は本能と呼ぶのさ…。










自由詩 まっさらな本当の生まれるところ Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-03-13 23:05:05
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