アダージオ
黒木アン

アダージオ

アンダンテより
遅いのに
ラルゴより
速いという


あらわになった
濡れた首筋

板の上に
身をはべらせて

うつる鏡に
姿をみては

音の波に
のみこまれて

気がつけば
ぴたりと
重なっている


いつ剥がされても
いいとでも

柔らかな
その筋肉は

背中で艶かしく
揺れつづける


フォルテに
さしかかろうと
その刻に

もったいぶった
指先で

なぞりながら
艶をまして
銀いろになるわ

滲んだ汗は
憂いながら
この音だけに
全てをまかせた

細いからだは
小さな呼吸で
耐えられるまで
鎖骨をひろげる

袖に入れば
大きな息が
胸を揺らして

演じたあとの
余韻もないまま

また観客へと
飛びだしていく

上手から
下手からと

衣装を纏った
踊り子たちが


舞ってきては
一斉に
みずみずしく
叫ぶように
恥ずかしげもなく


アダージオに
抱かれる刻


自由詩 アダージオ Copyright 黒木アン 2015-03-06 07:41:56
notebook Home 戻る