未来
アンテ


その後は末永く
ぬくぬくと暮らしましたとさ
で寓話は
おしまいです
きっと
ぬくぬくと太って
ぬくぬくと死んだのでしょう

巨大な筆でした
ある男が一生涯をかけた筆でした
これほどの筆ならば
きっと空に見事な一言を残せるだろう
みんな信じていました
けれどやっぱり
筆は空には届きませんでした
たっぷりと浸したインクが
ばらばら ばらと散って
街を汚しました
男は夜明け前に姿を消し
街は一年間
薪に不自由しませんでした

好きな人が怒っています
きらいな人が笑っています
大切な人が叫んでいます
知らない人が泣いています
顔を四等分にして
頭と目と鼻と口
ばらばらに入れ替えました
泣いているのはだれ
怒っているのはだれ
口々に言いました
それはわたしです
呆れた様子で頭を振り
鼻をフンとならして
目を閉じました

都合のいい場面で
一方的に幸せを押しつけて
おしまい おしまい
次のだれかを探すので
寓話はみんなの恨みを買って
とうとう罠にかかって
話のなかに閉じこめられてしまいました
よかったよかった
ではすみません
死ぬまで生きるのは
なかなか大変です
それでもみんな
必死に頑張っています
さて寓話はどうなったかというと

それは次回の講釈
だなーんて

空の高みに浮かんでいるのは
あれは
夜の瞳なのです
最後まで見届ける覚悟がないから
開いたり
閉じたりするんです
だなーんて

危ない危ない

夜の表面には
文字で書いてあるわけではないのに
みんな夜だと知っています
街の人々
他人
の顔を
じっと見たことがありますか

一年後
男は飛行機乗りになって帰ってきました
雲で空に文字を描きました
けれど街は小さすぎて
飛行機が降りられる場所はありません
ぐるぐる ぐる
男の飛行機は旋回しつづけました
家々の煙突から
煙がたちのぼっていました
ぬくぬくとたちのぼっていました

その後
燃料が切れて飛行機が墜落したのか
地面と飛行機をロープで結んで
遊園地のようにぐるぐる回ったのか
別の大きな街を見つけて飛び去ったのか
それは
まだ決まっていません

それは
未来のことですから





自由詩 未来 Copyright アンテ 2005-02-06 20:50:38
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