2ジグソーみそ汁
吉岡ペペロ

たくさんのひとの手に触れて仕事を終えた。

アルバイトといっても仕事は仕事だ。

半年前会社を辞めて就活はうまくいかなかった。

就活を休憩することに決めて地元のコンビニで働いていた。

きょうもたくさんのひとの声を聞いたような気がした。

車で通勤していた。

家族の残骸がまだいくつか残っていた。

助手席のドアの飲み物の差し込み口にストロベリーヨーグルトジュースのからが入ったままだった。

タバコの匂いだらけの車内だがまだすこしストロベリーヨーグルトの匂いを嗅げた。

家に帰ると母が食事をつくってくれていた。

父はもう寝ていた。

父が母に暴力をふるうようになったのは物心ついたころからではなかった。

理由はわからなかった。

母は父の暴力を受け入れているようなふしもあった。

みそ汁を飲んだ。うまい。串かつ屋のよりもうまい。

妻と子供たちと暮らしていたころ洗い物はぜんぶぼくがしていた。

洗濯物をたたむのもぼくだった。

妻も働いていたしそれらは苦ではなかった。

妻の飲み会のお迎えにもよく行った。

べろんべろんに酔っ払った妻を車にやっとこさ乗せて家に帰る。

帰る途中ラブホテルに寄ったこともあった。

肩肘ついてパチンコ番組を見ながら居間に寝転んでいたら母がおやすみと言って父が寝てる寝室にあがっていった。

あしもとにウサギがいた。

あしさきでウサギをさすりぼくは蛍光灯の天井をみあげて仰向けになっていた。

このままじゃいけないような気もしたしこのままの人生しかもうないような気もした。

妻の弁護士から封書が届いていた。

父も母もそれを開けなかったようだ。

ぼくも開ける気がしない。

でも慰謝料の請求なんかが入っていたらさすがに腹が立つだろうと思って開けてみた。

子供たちとは一ヶ月に一日会えるようだった。

慰謝料はなかった。

当たり前だ。ウサギのことはなにも書かれていなかった。

タバコを吸いながら読んでいたからその紙の束はタバコ臭くなっていた。

それを顔にのせると眠りそうになった。

このまま朝親に発見されたら悲しいだろうと思った。

思ったら紙から甘い匂いがした。

なんの匂いだろう。紙ってこんな匂いがしたっけ。

ほんとに眠りそうになったからテレビを消して部屋にむかった。

こんなものを手に持ちながら部屋にゆくぼくを妻が助けてくれないことが不思議だった。

一歩一歩がなんだかすがすがしくて泣けてきた。







自由詩 2ジグソーみそ汁 Copyright 吉岡ペペロ 2015-02-27 00:52:51
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